
目次
1.年金制度改正の動き
2.在職老齢年金制度とは
3.年金はどれくらいもらえる?
4.年金が一時停止とならない年収の限度は?
5.在職老齢年金制度の見直し
6.年金の繰上げ受給と繰り下げ受給
7.年金の繰り下げ受給をシミュレーション
8.繰り下げた場合の在職老齢年金との関係
1.年金制度改正の動き
少子高齢化が進み、保険料を納める現役世代の人の割合が減る一方で、
年金給付に関わる予算額はますます膨らんでいます。
厚生労働省は2024年に、年金財政の持続性を点検する5年に一度の「財政検証」を行い、
その結果をまとめ公表しました。
検証が行われた項目は次の5点。
⑴ 自営業者らが加入する国民年金の保険料納付期間を現行の40年から45年に延長
⑵ パートら短時間労働者が会社員らの厚生年金に加入する要件を緩和
⑶ 国民年金の水準低下を緩和するため、厚生年金から国民年金へ財源を振り向け
⑷ 65歳以降の賃金に応じて厚生年金が減る「在職老齢年金制度」の見直し
⑸ 厚生年金で高所得者が支払う保険料の上限の引き上げ
このうち、今回は⑷の在職老齢年金制度の動向に関してまとめました。
2.在職老齢年金制度とは
厚生年金保険に加入しながら老齢厚生年金を受ける60歳以上の方は、
「基本月額※1」と「総報酬月額相当額※2」の合計が一定以上(現在は51万円)となった場合、
年金額が支給停止(全部または一部)されるというものです。
※1 基本月額
年金額(年額)を12で割った額。なお、この場合の年金額とは、老齢厚生年金をいい、老齢基礎年金は含まない
※2 総報酬月額相当額
毎月の賃金(標準報酬月額※3)に、1年間の賞与(標準賞与額)を12で割った額を加えた額をいう。
大雑把に言えば、年収を12で割った額
※3 標準報酬月額
毎年、7月1日現在雇用されている事業所において、
同日前3カ月間(4月、5月、6月)に受けた報酬の総額をその期間の総月数で除して得た額。
これを定時決定といい、その年の9月から翌年の8月まで使用する
例えば、基本月額が13万円で、総報酬月額相当額が46万円の場合、
これらの合計額は59万円となり、51万円を超えてしまうため一部停止となります。
具体的には、
(13万円+46万円-51万円)÷2=4万円が本来の年金額の13万円から差し引かれ、
最終的な年金額は9万円となります。
さらに1か月の給与が上がり、64万円となった場合には、
(13万円+64万円-51万円)÷2=13万円となり、年金額は全額停止となります。
つまり、この人の場合、給与が64万円以上になると、年金が全く受給できなくなるということです。
注意)この一定の額である51万円について、
今後62万円に引き上げられる見通しです(令和8年4月1日施行)。
3.年金はどれくらいもらえる?
日本年金機構が令和7年4月1日付で「令和7年4月分(6月16日(月曜)支払分)からの年金額」について、
以下のように発表しました。
法律の規定により、令和6年度から原則1.9%の引き上げになるとのことです。

※1 令和6年度の昭和31年4月1日以前生まれの方の老齢基礎年金(満額)は、月額69,108円
この場合の満額とは、20歳以降40年間(480ヵ月)の間、保険料を納めた場合の額です。
ちなみに、22歳で就職し保険料を納めた場合、
それ以降通算で40年間保険料を納めるといった場合もあります。
※2 男性の平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)45.5万円)で、
40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準です。
上の表から計算すると、老齢基礎年金が69,308円、厚生年金は、
夫婦2人分の老齢基礎年金を含んで232,784円ですので、実際の老齢厚生年金は、
232,784-69,308×2=94,168円となります。意外と少ないことがわかります。
もちろん、夫婦共働きの場合には、これより多くなります。
4.年金が一部停止とならない年収の限度は?
65歳で引き続き働く場合、「ねんきん定期便」で老齢厚生年金の額がA万円だとします。
年収がB万円だとすると、
年金の支給停止額は(A+B÷12-51)÷2
例えば、A=13万円の場合、支給停止額をゼロとするためには、
(13+B÷12-51)÷2=0なので、B=456万円
つまり、年収が456万円以下であれば、年金の一部停止がないことがわかります。
5.在職老齢年金制度の見直し
高齢者の健康維持と社会の働き手の補充という意味で、昨今、政府は高齢者の就労を促進していますが、
在職老齢年金制度は、ある程度の収入があると年金そのものを減額してしまうことから、
高齢者の就労意欲をそぐとの指摘もあります。
このため、同制度が廃止になれば、減額対象となる一部の高齢者にとっては利益となり、
就労のモチベーションも高まると思います。
一方で、将来の給付財源が削られる(所得代替率が下がる)との指摘があり、見直しについては、慎重な判断が必要となります。
所得代替率:年金を受け取り始める時点(65歳)における年金額が、現役世代の手取り収入額(ボーナス込み)と比較してどのくらいの割合かを示すもの
今回の改正では、在職老齢年金制度の廃止は見送られ、支給停止基準の額を引き上げることとしました。
ちなみに、令和8年4月1日以降、支給停止基準が51万円から62万円となると、
先ほどの例の場合、(13+B÷12-62)÷2=0なので、B=588万円となり、
一部停止とならない年収の額が588万円まで引き上がります。
6.年金の繰上げ受給と繰り下げ受給
60~64歳11カ月まで受給を早める繰り上げ受給では、1カ月早めるごとに0.4%ずつ受給率が減り、
1年で4.8%の減、年金の受給開始を60歳まで早めると受給率は24%の減額
(65歳から受給した場合の年金額の0.76倍の額)となります。
一方、繰り下げ受給では、1カ月遅らせるごとに0.7%ずつ受給率が増え、
1年で8.4%の増、70歳まで繰り下げると42%の増額(65歳から受給した場合の年金額の1.42倍の額)となります。
なお、年金額が増えることで、税金や社会保険料も増えるため、
手取りが1.42倍になるわけではないことに注意が必要です。
繰り上げ受給及び繰り下げ受給の受給率は一度決めると生涯続くので、
年金をいつから受給するかはとても重要な問題です。
なお、年金は受け取る権利が発生したときに自動的に受給が開始されるわけではなく、
請求の手続きが必要です。
7.年金の繰り下げ受給をシミュレーション
66歳以降で受給を開始したい時期に、「繰り下げ請求書」を
最寄りの年金事務所または年金相談センターに提出することで手続きが完了します
(受給のスタートは年単位ではなく月単位で可能)。
また、この手続きを行った時点で繰り下げ増額率が決まるので、そのタイミングはとても重要です。
また、国民年金(老齢基礎年金)と厚生年金(老齢厚生年金)を別々に繰り下げすることが可能です。
ただし、繰り上げの場合は、国民年金と厚生年金を同時に繰り上げ受給する必要があります。)。
ここで気になるのは、70歳まで繰り下げ、本来の受給額の1.42倍となった場合に、
一体いつになったら65歳から本来の額を受給した場合と総受給額が等しくなるのかということです。
<70歳に繰り下げした場合>
下の図のように、65歳から受給した場合の年金額をA万円とし、
65歳から受給した場合の年金の総受給額と70歳まで繰り下げて受給した場合の
年金の総受給額が等しくなるまでの年数(65歳から)をB年とします。
65歳から受給した場合の総受給額:A万円×B年・・・
図の茶色い網掛けの部分(水色の部分との重なりを含む)
70歳から受給した場合の総受給額:A万円×1.42倍×(B年-5年)
・・・図の水色の部分(茶色い網掛けの部分との重なりを含む)
総受給額が同じということは、茶色い網掛けの部分と水色の部分の面積
(それぞれ重なる部分を含む)が同じということなので、
A×B=1.42A×(B-5)
B=1.42×B-1.42×5
0.42B=1.42×5 ・・・ B=16.905=約16年と11カ月
つまり、65歳に16年と11カ月を足して、81歳と11カ月となります。
男性ですと、なんと平均寿命(2024年時点で81.09歳)に近いですね。
これをどう考えるかは個人個人の問題ですが・・・

<75歳に繰り下げした場合>
下の図のように、65歳から受給した場合の年金額をA万円とし、
65歳から受給した場合の年金の総受給額と75歳まで繰り下げて受給した場合の
年金の総受給額が等しくなるまでの年数(65歳から)をC年とします。
65歳から受給した場合の総受給額:A万円×C年
・・・図の茶色い網掛けの部分(水色の部分との重なりを含む)
75歳から受給した場合の総受給額:A万円×1.84倍×(c年-10年)
・・・図の水色の部分(茶色い網掛けの部分との重なりを含む)
総受給額が同じということは、茶色い網掛けの部分と水色の部分の面積
(それぞれ重なる部分を含む)が同じということなので、
A×C=1.84A×(C-10)
C=1.84×C-1.84×10
0.84C=1.84×10 ・・・ C=21.905=約21年と11カ月
つまり、65歳に21年と11カ月を足して、86歳と11カ月となります。
男性ですと、平均寿命(2024年時点で81.09歳)を大きく超えています。
女性のそれ(同時点で87.14歳)に近いですね。
これをどう考えるかは個人個人の問題ですが・・・
まるで、年金の増額率は、これらの平均寿命から逆算したような数値に思えてなりません。

今回の計算では、70歳、75歳まで繰り下げた場合を計算してみましたが、
途中いつでも、例えば、67歳と5カ月経ったところで年金受給の申請をしても構いません。
65歳のときを迎え、元気に働いていて、金銭的にも特に困っていないような状況であれば、
65歳でとりあえず繰り下げを始めておくというのもよいかも知れません。
一方で、前述したとおり、日本人の寿命(2024年の統計)を見ると、
平均寿命は、男性81.09歳、女性87.14歳
健康寿命は、男性72.57歳、女性75.45歳
となっています。
いかがでしょうか。
健康寿命は「健康上の問題で日常生活に制限のない期間」と定義されていることを考えると、
年金は増えても、しっかり健康で楽しく前向きにお金を使うことができなければ元も子もないとも言えます。
もちろん、将来介護が必要になったら、年金の多寡もとても大切になるのですけれども。
8.繰り下げた場合の在職老齢年金との関係
要 注 意 !!!
ここで気をつけたいのが、年金の繰り下げと在職老齢年金の関係です。
私は50代のころから、「将来、元気なうちはずっと働きたい。65歳、70歳、
いや75歳でも元気であったなら働き続けたい」と思っていました。
そんなとき、当初は、年金の繰り下げと在職老齢年金について、大きな誤解をしていたのです。
それは、
「65歳以降もバリバリ働き続けるのであれば、どうせすぐに年金は必要ないのだから、
70歳まで年金を繰り下げよう。そうすれば、70歳まではそもそも年金をもらっていないのだから、
在職老齢年金制度による年金の減額はないだろう。
しかも、70歳からは、前述した1.42倍となった年金を受け取れるし、一挙両得だ!」と。
しかし、現実は、
もし、65歳以降の給与がそれなりの額になって、
在職老齢年金制度により、年金の一部停止となった場合には、
その停止された部分には繰り下げの効果が及ばない・・・
もしも年金が全停止となっていたら、その期間は、
繰り下げしても全く繰り下げの効果を得られない・・・
ということがわかったのです。
これはあまり知られていない(というか広報されていない!)のですが、
とても重要です。
特に、65歳以降も働き、高収入の方は要注意です!!
例:65歳以降の年金の基本月額が12万円で、総報酬月額相当額が46万円であった場合、
(12万円+46万円-50万円)÷2=4万円となり、
年金12万円から4万円を引かれた8万円が年金額となりますが、
繰下げの効果が及ぶのは、この一部停止分を引かれた8万円の部分に限られるということです。
したがって、70歳から受給できる年金は、本来の年金の1.42倍にはならず、
少々乱暴に計算すれば、1倍+0.42倍×(8万円÷12万円)=1.28倍となってしまうということです。
相談に行った年金事務所でそれを知ったとき、
担当していただいた方に思わず言ってしまいました。
「在職老齢年金制度というから、何か年金に
上乗せされる仕組みかと思っていたのに、
高齢者に働くことを推奨している一方で、
ずいぶん姑息な制度なんですね。
現役の時に、長い間沢山の保険料を納めた
(強制的に聴取された)のだから、一部停止などせずに、
せめて、一部停止の部分を所得税の控除に加えると
いった対応をとってもらいたいものですよね。」
と少々皮肉交じりに言ったところ、
「いえいえ、健康で、しかもそれだけの収入があることに感謝して、
あまり細かいことにこだわらず、もっともっと働いて稼げばいいのですよ。」
とやんわり諭されたのを思い出します。
「健康第一。社会に出て元気に働けて、その対価をもらっていることに喜びを見出すことが大切」
と考えることが、精神衛生上一番なのかも知れません。
#年金 #在職老齢年金