投資信託と複利について考える


19世紀最大の発明と言われる複利。複利で身近なものとしては、定期預金の利息が思いつきますよね。

 私は10年ほど前から投資信託をやっていますが、気になるのは、最近新NISAの制度が施行され、SNSや色々なパンフレットを見ていると「投資信託は複利効果が高い」といったようなフレーズを見かけることです。

投資信託に複利効果?なんだか変ですが、どうなのでしょうか。

 元本120万円の定期預金と、積立総額120万円の投資信託では、10年後の総額を同一とした場合、利率等はどうなるか。

 元本120万円を年利率5%の定期預金に預けた場合の10年後の総額は195万4,674円

2.投資信託で毎年一回一定の額を10年間、総額120万円まで積み立てた場合の10年後の総額が195万4,674円となるには

 元本120万円を元手に、投資信託に毎年一回12万円を10回(10年間)積み立てた場合の10年後の総額が195万4,674円となる場合(投資信託に利率というものはないが、基準価額が一定の割合で増えたと仮定)の当該一定の割合とは、年率8.71%

3.投資信託で毎月一回一定の額を10年間、総額120万円まで積み立てた場合の10年後の総額が195万4,674円となるには

 元本120万円を元手に、投資信託に毎月一回1万円を120回(10年間)積み立てた場合の10年後の総額が195万4,674円となる場合(投資信託に利率というものはないが、基準価額が一定の割合で増えたと仮定)の当該一定の割合とは、年率9.045%(月当り換算利率0.754%)

4.投資信託で「設定来の騰落率が147.58%」とは

 投資信託の設定来の騰落率とは、設定時の基準価額10,000円が、上下変動を繰り返した結果、現在までに147.58%上昇して24,758円となっているということ。

 当初より上がっていることはよいことだが、投資信託購入をスタートするタイミングや購入金額、積み立て頻度などは個人でそれぞれ異なるため、これまでの上下変動はあまり意味をなさない。長い目で見れば上昇傾向にある(あった)くらいの意味合いで、これからの成績とは無関係。

 そもそも取引価格(基準価額)が変動する投資信託に複利といった概念は当てはまらず、利益を再投資しているといった方が当てはまる(投資信託のなかには、定期的に配当金が出るとうたうものもあるが、この場合、利息が付かず単利計算となったり、最悪の場合元本を削ってしまうので要注意)。


 まず、よく知られている定期預金の複利計算をしてみます。
 例として、10年前に120万円を利息5%で預けていた場合を想定してみます。

 若い方はあまりピンとこないかと思いますが、利率5%というのは、昭和から平成に代わる、いわゆるバブル期と言われた頃に、本当にあった話です。

 私自身、当時定期預金に100万円を預けておいて、3年くらいたって解約したところ、120万円を超えていたということを覚えています。利息が6%や7%といった銀行預金もありました。現在では到底考えられませんが。

 さて、話を元に戻します。

 120万円を定期預金に預け、1年後には120万円に利息5%がつくので、120×1.05=126万円となります。これに9回(残る9年)1.05を掛けると、(120×1.05) ×1.05×1.05×1.05×・・・×1.05=120×1.6288946…=195.46735…(195万4,674円)となります。

 ちなみに、単利の場合には、元本の120万円のみに1年後から10年後までそれぞれ利息5%がつくだけですので、
 元本(120)+利息分(120×0.05+120×0.05+120×0.05・・・+120×0.05)=元本(120)+利息分(120×0.05×10)
 =120+60=180…(1,800,000円)となります。

 つまり、単利:あくまで最初の元本からのみ利息が発生する(資産の増加ペースが一定)
    複利:前期までに発生した利息を元本に合算して、当期の利息の計算対象にする(資産が加速度的に増加。運用期間が長くなるほど効果大)

 以下、複利計算をベースに色々と計算してみます。

 ちなみに、スマートフォンの関数電卓の「Xy」キーを使って計算してみます。
 iphoneであれば、「計算機」のアプリの画面を出して、スマホを横向きにすると関数電卓が現れます。

 まず、利率にあたるXとして1.05を入力し、Xのy乗を求める「Xy」のキーを押してから、預け入れの期間にあたるyとして10を入力して、最後に「=」を押します。

 結果は1.6288946となり、これに元本120万円の120を乗ずれば(掛ければ)、やはり195.46735…(1,954,674円)となります。

 通常の定期預金は、初期に元本(今回の場合は120万円)を預け入れて、しかるべき期間(今回の場合は10年)が経過した際にいくらになるかというパターンです。

 基本的には利息の利率(今回の場合は5%)は変化しないため、単純に元本に1.05(元本の1に利率5%の0.05を加えた値)を10回(10年)乗じていけば10年後の総額が求められます。

 一方で、投資信託は定期預金と以下のような点が異なります。
⑴ 基本的に、投資信託は初期の一括払いではなく積み立ての形をとることが多い(もちろん、現在の新NISAの成長枠のように、一括購入する場合や途中で買い増しのためのポイント購入をする場合などがありますし、途中で一部を売却する場合などもありますが、今回の計算にあたっては、これらは行わず、期間中、一定額を定期的に積み立てていくものとします。)

⑵ 投資信託に定まった利率というものはなく、日々基準価額(投資信託の単位取引価格)が増減するため、途中で総額がいくらでも変化すること(定期預金の総額は毎年右肩上がりなのに対して、投資信託の総額は、日々変動する基準価額をもとに計算されるため、株価のように日々上下に変動します)。

 そこで、仮に⑵で基準価額が一定の割合で増加するとした場合(年利率が一定=b%)、毎年一定の額(A万円)で積み立て購入を続け、10年後に積み立て総額が120万円になるようにした場合、1,954,674円となるには、b%はどれくらいになる必要があるのかを計算してみます。

(注:実際の投資信託では、積み立てというと、毎年1回積み立てではなく、毎月1回積み立てるというのが主流です。今回は、計算を簡便にするため、まず年1回の購入で計算してみます。)

 毎年A万円を積み立て、10年後に積立総額が120万円になるには、A万円×10年=120万円となるため、A=12、つまり毎年12万円を積み立てることになります。

 したがって、利率をb%とした場合、B=1+b/100 (これは、例えば、利率が5%なら、1.05)として、

1年後 120,000×B
2年後 (120,000×B+120,000)×B=120,000×B2+120,000×B
3年後 ((120,000×B+120,000)×B+120,000)×B=120,000 ×B+120,000×B2+120,000×B



10年後 120,000×B10+120,000×B9+120,000×B8+…+120,000×B2+120,000×B)
=120,000×(B10+B9+B8+…+B2+B)

 これが先ほどの定期預金の10年後の額  1,954,674円となればよいので、

  120,000×(B10+B9+B8+…+B2+B)=1,954,674
   B10+B9+B8+…+B2+B=16.28895

 このようになる場合のBをエクセル表で求めてみます。

 まず、適当にB=1.10(つまり、利率b=10%)で、

BB10B9B8B7B6B5B4B3B2B=16.28895
1.10002.592.362.141.951.771.611.461.331.211.10=17.53117

 少し大きすぎました。
 次にB=1.05(利率5%)で、

BB10B9B8B7B6B5B4B3B2B=16.28895
1.10002.592.362.141.951.771.611.461.331.211.10=17.53117
1.05001.631.551.481.411.341.281.221.161.101.05=13.20679

 今度は小さ過ぎましたが、どうやらこの間に答えはありそうです。
 今度はB=1.08(利率8%)で、

BB10B9B8B7B6B5B4B3B2B=16.28895
1.10002.592.362.141.951.771.611.461.331.211.10=17.53117
1.08002.162.001.851.711.591.471.361.261.171.08=15.64549
1.05001.631.551.481.411.341.281.221.161.101.05=13.20679

 こんなことを何度か繰り返して、

BB10B9B8B7B6B5B4B3B2B=16.28895
1.10002.592.362.141.951.771.611.461.331.211.10=17.53117
1.08802.322.141.961.801.661.521.401.291.181.09=16.37295
1.08722.312.121.951.801.651.521.401.291.181.09=16.29863
1.08712.302.121.951.791.651.521.401.281.181.09=16.28937
1.08702.262.121.951.791.651.521.401.281.181.09=16.28011
1.08502.162.081.921.771.631.501.391.281.181.09=16.09608
1.08002.162.001.851.711.591.471.361.261.171.08=15.64549
1.05001.631.551.481.411.341.281.221.161.101.05=13.20679

 上の表から、Bは約 1.0871であることが分かります。
 年利率をb%とした場合、B=1+b/100でしたから、b=8.71 
 つまり、年利率にして8.71%となります。

 結構高い利率ですよね。しかし、初期に120万円を利率5%で10年間預けたものと競争するのですから、これくらい高い利率でなければ追いつけないということですね。

 2.と同様に、今度は月一回の積み立てで計算してみます。

 仮に基準価額が一定の割合で増加するとして(年利率が一定=C%とします)、毎年一定の額(D万円)で積み立て購入を続け、10年後に積み立て総額が120万円になるようにした場合、10年後の総額が1,954,674円となるには、年利率C%はどれくらいになる必要があるのかを計算してみます。

(注:実際の投資信託では、積み立てというと、毎年1回ではなく、毎月1回積み立てるというのが主流です。)

 毎月D万円を積み立て、10年後に積立総額が120万円になるには、
D万円×10年×12月=120万円となるため、D=1、つまり毎月1万円積み立てることとなります。

 ここで、年利率をC%とした場合の月換算の利率部分はE=1+C/12/100 (これは、例えば、年利率が5%なら、月換算の利率は5%/12月=0.4167%となり、元本の1と合わせてE=1+0.004167=1.004167

1カ月後 10,000×E
2か月後 (10,000×E+10,000)×E=10,000×E2+10,000×E
3か月後 ((10,000×E+10,000)×E+10,000)×E=10,000 ×E+10,000×E2+10,000×E



120か月後(10年後)
  10,000×E120+10,000×E119+10,000×E118+…+10,000×E2+10,000×E)
=10,000×(E120+E119+E118+…+E2+E)

 これが先ほどの定期預金の10年後の額  1,954,674円となればよいので、
  10,000×(E120+E119+E118+…+E2+E)=1,954,674
  よって、E120+E119+E118+…+E2+E=195.4674

 このようになる場合のC及びEをエクセル表で求めてみます。

 まず、適当にC=1.10(つまり、年利率10%)とすると、E=1+0.10÷12月=1.00833となります。

年率月換算利率109990000年目
10%0.83%1201191181174321
CE=1+C/12E120E119E118E117E4E3E2E1= 195.46740
1.0001.008332.712.682.662.621.041.031.021.01=206.55202

 このとき、E10+E9+E8+…+E2+E=206.55202 となり、少し大きすぎました。

 次に、C=1.08(つまり、年利率8%)とすると、E=1+0.08÷12月=1.00667となります。

年率月換算利率10999・・・0000年目
10%0.83%120119118117・・・4321
CE=1+C/12E120E119E118E117・・・E4E3E2E1= 195.46740
1.0001.008332.712.682.662.62・・・1.041.031.021.01=206.55202
1.08001.006672.222.202.192.18・・・1.031.021.011.01=184.16568

 今度は、E120+E119+E118+…+E2+E=184.16568 となり、少し小さすぎましたが、これらの間にありそうです。

 こんなことを繰り返して、

年率月換算利率10999・・・0000年目
10%0.83%120119118117・・・4321
CE=1+C/12E120E119E118E117・・・E4E3E2E1= 195.46740
1.0001.008332.712.682.662.62・・・1.041.031.021.01=206.55202
1.09101.007582.482.462.442.40・・・1.031.021.021.01=196.08789
1.09051.007542.462.452.432.39・・・1.031.021.021.01=195.52578
1.090451.007542.462.442.432.39・・・1.031.021.021.01=195.46967
1.09041.007532.462.442.422.39・・・1.031.021.021.01=195.41359
1.09001.007502.452.432.412.38・・・1.031.021.021.01=194.96563
1.08001.006672.222.202.192.18・・・1.031.021.011.01=184.16568

 計算した結果、C=1.09045(つまり、年利率9.045%)、E=1.00754(つまり、月換算利率0.754%)となりました。

 したがって、年利率9.045%(月当り換算利率0.754%)で達成することとなります。
 かなり高い利率でないと実現しそうもありません。現在の社会経済状況ではちょっと現実的ではありませんね。

 さて、ここで、冒頭にお話ししたとおり、よく投資信託の会社がパンフレット等で、「2013年の投資信託設定来の騰落率は147.58%!」といったようなキャッチフレーズを見かけますが、これはどういうことでしょうか。

 ここで騰落率とは、株式や投資信託(ファンド)が、ある期間の始めと終わりとで価格がどれだけ変化したかを表すものです。
 たとえば、価格が100円の運用商品が105円になれば5%の上昇、90円になれば10%の下落となります。手数料や税金を勘案していないため、実際の運用損益とは異なり、また、過去の実績であり、将来を予想するものではないことに注意が必要です。

 株式や債券の場合は、1日の騰落率を評価するのが一般的ですが、投資信託では、1ヵ月、3ヵ月、6ヵ月、1年、3年、5年と中長期の騰落率も評価します。

 そのパンフレットを読むと、「現在の基準価額 24,758円」となっていました。なるほど、設定当初の基準価額は10,000円でスタートするので、現在の基準価額が24,758円ということは、当初の価額から14,758円上昇し、基準価額が147.58%増加したことが分かります。

 先述したように、基準価額は定期預金の利息のように一定額で増えていくものではありませんが、10年間で基準価額が一定の割合で増えたと仮定した場合の増加率(年利率)はいくらかといえば・・・

 また、スマートフォンの関数電卓を使って計算してみます。iphoneであれば、「計算機」のアプリの画面を出して、スマホを横向きにすると関数電卓が現れます。

 今度は、Xのy乗根である「y√X」キーを使って求めます。
 10年で147.58%増ですから、X=1+1.4758=2.4758、y=10として、
 関数電卓で、まず2.4758を入力し、「y√X」キーを押してから、10を入力し「=」キーを押すと、1.09489…となりました。

 ちなみに、Excelで計算をする場合は、Xの入っているセルがB4、yの入っているセルがB3だとすると、「=POWER(B4,1/B3)」といった計算式を入れれば求めることができます。

 上下動を繰り返す基準価額に利率というものはありませんが、もしも10年間の平均年利率を割り出すとしたら、年率約9.5%であるということになります。年率9.5%。かなり高い値ですね。

(注:実際の投資信託では、積み立てというと、毎年1回ではなく、毎月1回積み立てるというのが主流です。今回の計算では、簡便とするため年1回の購入としました。)

 しかし、基準価額は株価のように日々変動しますから、上昇下降を繰り返しながら、単純に、現在は24,758円になっているだけのことです。

 このパンフレットの例では、2013年から現在までおよそ10年の間、基準価額が上がったり下がったりして今に至るので、基準価額が下がったときに購入して、今上がっていれば喜ばしいことになります。株価と似ていますね。
 しかし、投資信託の場合はそう単純ではありません。  

 下の表は、設定来の騰落率から、その時々の基準価額を計算し表にまとめたものです。

西暦2007200820092014201920202021202220232024
経過年設定来15年10年5年3年1年6月1月現在
基準価額10,0006,94111,52714,59517,81719,62021,74824,15724,758
騰落率147.58256.69114.78 69.63 38.96 26.19 13.84 2.490.00
騰落率
+100
247.58356.69214.78169.63138.96126.19113.84102.49100.00
2008年9月 リーマンショック発生

 2008年に米国で発生したリーマンショックの時に、だいぶ基準価額が下降しました。その価額が安くなったときに購入し、その後売却せずに15年間保有し現在に至っていれば、256.69%の増加となっていることがわかります。
 ただし、その安くなった時に購入できる(購入し続ける、購入し始める)勇気と余裕があればの話ですが。

 ここで「ドルコスト平均法」というものが大切になりますが、それについてはまた次回。

 元本120万円を元手に、定期預金、投資信託を活用した場合について、10年後の総額を統一した場合、利率等はどうなるのか。

1.120万円を利息5%の定期預金に預けた場合の10年後の総額
 元本120万円を年利率5%の定期預金に預けた場合の10年後の総額は195万4,674円

2.投資信託で毎年一回一定の額を10年間、総額120万円まで積み立てた場合の10年後の総額が195万4,674円となるには
 元本120万円を元手に、投資信託に毎年一回12万円を10回(10年間)積み立てた場合の10年後の総額が195万4,674円となる場合(投資信託に利率というものはないが、基準価額が一定の割合で増えたと仮定)の当該一定の割合とは、年率8.71%

3.投資信託で毎月一回一定の額を10年間、総額120万円まで積み立てた場合の10年後の総額が195万4,674円となるには
 元本120万円を元手に、投資信託に毎月一回1万円を120回(10年間)積み立てた場合の10年後の総額が195万4,674円となる場合(投資信託に利率というものはないが、基準価額が一定の割合で増えたと仮定)の当該一定の割合とは、年率9.045%(月当り換算利率0.754%)

4.投資信託で「設定来の騰落率が147.58%」とは
 投資信託の設定来の騰落率とは、設定時の基準価額10,000円が、上下変動を繰り返した結果、現在までに147.58%上昇して24,758円となっているということ。

 当初より上がっていることは悪いことではないが、投資信託購入をスタートするタイミングや購入金額、積み立て頻度などは個人でそれぞれ異なるため、これまでの上下変動はあまり意味をなさない。長い目で見れば上昇傾向にある(あった)くらいの意味合いで、これからの成績とは無関係。

 そもそも取引価格(基準価額)が変動する投資信託に複利といった概念は当てはまらず、利益を再投資しているといった方が当てはまる(投資信託のなかには、定期的に配当金が出るとうたうものもあるが、この場合、利息が付かず単利計算となったり、最悪の場合元本を削ってしまうので要注意)。

 ここで、「ドルコスト平均法」というものを知っておくべき。

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