
幸せになる作法 (ひすい こたろう)
今の幸せに気づく
「心が喜ぶ生き方、幸せな生き方について、そのポイントをたった一つに絞るなら、なんでしょう?」
もし、そんな問題が出たら、あなたならどう答えるでしょうか?
私ならこう答えます。「今の幸せに気づくこと」。どういうことなのか説明しますね。
1991年の秋、台風が次々に上陸して、青森県のリンゴが9割も落ちてしまったことがありました。作ったリンゴの9割が売れない。リンゴ農家の人は肩を落として嘆き悲しみました。しかし、嘆き悲しまなかった人がいたのだそうです。大丈夫、大丈夫と。なんで、大丈夫なんでしょう?
その方は、落ちなかったリンゴを「落ちないリンゴ」の名前で受験生に売り出したそうです。1個千円で。すると高いけど、飛ぶように売れたそうです。受験生も縁起がいいと大変喜んで食べました。これで、農家の人も助かり、買う人の喜びも生まれたのです。
どんな出来事にもプラスに見える部分とマイナスに見える部分があります。マイナスとプラス。どっちを見た方が人生楽しくなりますか?その方は下に落ちた9割のリンゴに意識を向けず、上に残っていた落ちなかった1割のリンゴを見ていたのです。
マイナスに見える局面の中にも必ずプラスはあります。問題はあなたがどちらを見るかにかかっているのです。
作家の三浦綾子さんは、新婚時代、最高に豊かで幸せな時代だったと言っています。なんでだと思いますか?
それは・・・何もなかったから。何もなかったから、最高に豊かで幸せだったというのです。一つひとつそろえていくことで、一つずつ幸せになっていけたからと。そうです。人は何もないことの中にも「喜び」を見出せるのです。
健康を崩したら、それは絶対に不幸になると捉える人もいれば、明治時代の物理学者の寺田寅彦さんのように、「健康な人には病気になる心配があるが、病人には回復するという楽しみがある」という人もいます。
漫画の「ドラえもん」にもこんな話があります。嫌な人を消せる「どくさいスイッチ」を使ってのび太は次々にまわりの人を消していきます。ついには、のび太ひとりしか世界にはいなくなってしまいます。最初は楽しかったのび太ですが、次第にひとりでは生きていけないことを悟ります。そして、世界が元に戻ったあとの、のび太の言葉がこうです。
「まわりがうるさいってことは、楽しいね」まわりがうるさいことの中にも、「楽しい」を見出せるのです。
カナダに行ったとき、雨の中、傘をささずに歩く人が半分もいることに驚きました。アメリカでもそういう傾向がありますが、外国の方はなぜ傘をささないのかというテレビの街頭インタビューを見たことがあります。その中に、「雨に当たるって気持ちいいから」と答える人がいました。
雨を憂鬱だと捉えることもできれば、雨を楽しむことだってできるのです。
因みに、僕の友人の禅僧は、雲水としてお寺で修行しているとき、雨の日がとても楽しみだったと言っていました。彼は音楽が大好きだったけど、さすがにお寺で聴くわけにはいかない。でも、雨の音に意識を向けていると、雨の音が音楽を奏でていることに気づき、以来、雨が大好きになったそうです。
もう一つ例をあげましょう。有名なこの句です。
「なかぬなら 殺してしまえ ホトトギス」織田信長
「なかぬなら なかせてみせようホトトギス」豊臣秀吉
「なかぬなら なくまで待とう ホトトギス」徳川家康
これに対して、芸人の萩本欽一さんはこう言っていました。
「なかぬなら 静かでいいよ ホトトギス」
そう。なかないことにも幸せを見出せるのです。幸せを感じるかどうかは、起きる出来事が決めるわけではないんです。環境が決めるわけでもない。じゃあ、何が決めるのか?
あなたの心が決めるのです。幸せはあなたの捉え方が決めます。
不幸と幸せの違いとは
ドイツの哲学者、ショーペンハウアーは言いました。
「幸せを数えたら、あなたはすぐに幸せになれる」
不幸な人と、幸せな人の違いは、見ているところだけなのです。不幸な人は不幸を見つけるのがうまい。幸せな人は幸せを見つけるのがうまいのです。違いはそれだけ。だから幸せになるのは簡単なのです。幸せはなるものではなく、気づくものだからです。
ご飯が食べられること、友人がいてくれること、歩けること、話せること、こうして本を読めること、呼吸できること、指が動くこと、手が動くこと、見えること、戦争のない場所に生まれてこれたこと。
どれもこれも当たり前のことではありません。有り難いことなのです。
では最後に質問しましょう。
「もし、失うことになったら、とっても悲しくなってしまう人やことを3つ以上あげて、それを失った状態を3分間だけ想像してみてください。」
どうでしたか。大切な人やものを失うことを想像すると、大きな悲しみと痛みを感じますよね。同時に、そのかけがえのないものが今、目の前にあり、存在することが有り難く、愛おしく、大切にしようと思えたのではないでしょうか?
今、あなたを囲んでいる幸せに気づいてください。小さな幸せを感じるその感情が、未来の幸せを呼び寄せます。それが人生を喜びで生きる秘訣です。
「人間が不幸なのは、自分が幸福であることを知らないからだ。ただそれだけの理由なのだ」byドストエフスキー
毎日、生活していると気づかない小さな幸せ。
そのくせに、ついつい不満を口にしたり、損得勘定で行動していたり。反省。
そんな見過ごしてしまいそうな小さな幸せに、敏感になっていたいものです。